ロレッタインタビュー(vol.3)

子供の頃から「在り方」を考えていくことが大事

ー多感な時期に、教師や友達の言うことに流されずにいたのは幸いでしたね。

甲原:私はそうならずにすみましたが、道を踏み外していく子はいました。ヤンキー以外にも、フェラーリにのる親がいても友達と万引きを繰り返して転校せざるを得なくなった子とか。安易に群れて流されるとそういうことになるのかなあ、と眺めていました。

そういう同級生ともなじめないので、家で映画もよく観ていました。サイレントまで遡り、映画評論もかなり読みました。私には夢中になれる映画や読書があったのでラッキーでしたが、そういうものがない子が流されたのかもしれないですね。民度も低く文化もなくお金だけがあったり、どれもがない家だと道を踏み外しやすいのかもしれません。

文化ではお腹は満たされないけれど、大事なときには人生を守ってくれると思います。エサを食べてセックスして妊娠して子供を産むだけなら、野良猫でもできるでしょう?でも人間には、文化や抽象的なことを考える力がある。

ーこの差は大きいですよね。

甲原:そう思います。そういえば先日、「子供を保育園に入れるときに、『どういう教育方針がありますか?』と先生に質問されて、まだ何も考えてなかったのでびっくりした。そんな早くに決めないといけないのか」というお客様がいらっしゃいました。

でも、そういうことが“人間育て”に必要なものだと思うのです。私の世代は「良い大学に入り、良い会社に入り、男は会社に生涯忠誠を誓い、女はそういう男の嫁に貰ってもらい、一生食うに困らない『社会的ステータス』と『金』さえ手に入れば人生は成功……と思ったら、全くそうではなかった」というのが決定的になった世代です。

非行は貧乏な家のものだけのものではなくて、実は立派とされる職業の、たとえば大学教授や士業の親の下でも起こります。経済面と物質面では何の不足ない、むしろプラスに満ちた家庭でも、過干渉と過保護によって、子供が大変な事件を起こす。「努力が足りない」と言われつづけて退路を見失い、自殺するエリートもいるのですから。

ーそれを防ぐにはどうすれば良いでしょうか。

甲原:たとえば、「どういう子供に育ってほしい」と訊かれたときに、どう考えますか?

「健康で元気で素直な子に育ってくれれば良い」という方は多いですが、女の子は「素直さ」が「媚び」へと変容することもあります。それなら「元気」で「健康」ならばよいかというと、親の庇護の下で元気で健康なだけでは自立心は育まれにくくなります。「幼いおばさん」のできあがりです。

媚びだろうが若さと美貌だろうが、使えるものは駆使すれば良いですが、同時進行で実績と経験を積むことも忘れないほうが良いと思います。

そこを「媚びさえすればどうにかなる。困っても誰かがどうにかしてくれる。」と思い違いをしたまま年齢を無為に重ねると、職業人としてのキャリアはつぶしがきかなくなります。

媚びたことで一時的に仕事を回してもらえることはあっても、職業人として無能な人にお金を払い続けてくれるほど世の中は甘くありません。若さを失い、美貌も衰え、媚びが通用しなくなり、親は亡くなり立ち行かなくなって、「あの頃はよかった」ばかりを口にするのはちょっともったいないですよね。そこから先はもっと長いのに。

だから、先生の質問の本意は「どういう人であってほしいですか?」ということだと思います。

子供がある程度の年齢に成長したら、大人が子供に「あなたはどういう人で“在りたい“の?」と問うたほうが良いのでしょうが、日本では「あなたは将来何に“なりたい”の?」という訊き方をしてしまうことが多い。

ー「結果」を訊いてしまうということですね。

甲原:そうです。今の日本の価値観では、なりたいものになれなかっ たら、もうそれは失敗で、挫折にしかならない。

しかし、なりたいものになるための「過程での在り方」も大事にすれば、なりたかったものになれなくても、決してその道のりは無意味ではないです。

だから20代の女子で、「30代後半や40代以上の先輩は、仕事と子育ての両立で大変そう。私の母は専業主婦だし、働かずに生きられるならそのほうがラク。だったら私も専業主婦がいい」という子はいますよね。でもこの結果選択のプロセスには「私はどういう人で在りたいか?」は何一つ含まれていない。可愛かったり、綺麗な容姿で生まれついてちやほやされると、とくにそのあたりを人生の早い段階で間違えやすいのかな、と思います。そこにはひとつの幸せがあるのかもしれませんが、自分の人生は自分で切り開かないと、誰も手伝ってはくれません。

ーそして、常識的な倫理観だけを指針にしていたり。

甲原:ええ。日本最大の宗教は「世間様教」です。皆と仲良く、友達は100人いて、女の子らしく、といった「均質化」と、「世間に迷惑をかけるな」を求めます。しかし誰にも迷惑をかけずに生きるのも死ぬのも不可能です。そして友達は100人もいらないです(笑)。

これは精神科医の斎藤学先生が書いていたのですが、「人間は水の中に生きている魚のようなもので、人間関係が水。魚は水なしには生きていけない」「対人関係をなんとかやっていける、人との関係の中で生きられるというのは、大人の大事な条件のひとつです」と。そのためには、経験したことを経験で終わらせずに、考えを巡らせることが大切ではないでしょうか。