ロレッタブログ

代替医療のトリック - 2010.11.17

今年読んだ本でトップ3に入るくらい面白かったので、改めてご紹介。
代替医療のトリック / / サイモン・シン エツァート・エルンスト / 新潮社
原題 : Trick or Treatment? Alternative Medicine on Trial

以下、ちょっと長いですが、本書から引用。
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もしあなたが科学の力に懐疑的な人であっても、せめて第Ⅰ章は読んでみてもらいたい。第Ⅰ章を読み終えるまでには科学的方法の価値に納得し、以降の章の結論を受け入れても良いという気持ちになってもらえるだろう。
しかし第Ⅰ章を読んでもなお、科学が代替医療の効果を判定する最善の方法だとは思えないという人もいるだろう。そういう人は科学が何を言おうと、自分の世界観を手放す気はないのかもしれない。「代替医療はどれもこれもクズだ」という確固たる信念の持ち主もいるだろうし、逆に、「代替医療はあらゆる痛みや病気を癒してくれる万能薬だ」と言って譲らない人もいるだろう。
本書はそういう人のための本ではない。科学的方法で真実を判定できると考えるつもりがまったくないのなら、第Ⅰ章を読むことにすら意味はない。実際、もしもあなたが代替医療について、すでに確固たる意見をもっているなら、本書を書店に反し、代金を払いもどしてくれるよう頼んだ方がよいかもしれない。既に答えを持っているなら、たとえ何千件という研究から引き出された結果であろうと、今さら聞く意味はないだろう。
しかしもちろん、われわれの願いは、あなたが結論を急がず、本書を読み進めたいと思ってくれることだ。
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以下、訳者あとがきより引用
今日、代替医療―現代の科学によっては理解できないメカニズムで効果を現すと考えられる治療法で、科学者や多くの医師が受け入れていないもの―は、全世界で数兆円規模の市場に成長しているといわれる。果たして代替医療には、宣伝されているような効果があるのだろうか?お金を費やし、かけがえのない健康を託すに値するものなのだろうか?
本書は、さまざまな代替医療―鍼、ホメオパシー、カイロプラクティック、ハーブ療法の四つを本文で取りあげ、その他については付録に簡潔にまとめてある―の有効性と安全性を、今日手に入るかぎりもっとも信頼性の高いデータにもとづいて判定しようという試みである。

~中略~
二人の著者の狙いは、これだけ普及している代替医療を、メカニズムが科学的に理解できないからといって頭から否定することにあるのではない。なんといっても、医療にとってなによりも大切なのは、実質的な効果があるかどうかだ。代替医療の基礎となっている思想や理論は、科学的には理解できないし、なかには荒唐無稽といってよいものもあるけれども、そのこと自体は医療にとってそれほど重要ではない。現代の科学的知識で理解ができないのなら、メカニズムの解明は未来に託せばよいだけのことなのだからだ。
一方、もしもありもしない効果があると主張されてるのなら、人びとはかぎりあるお金を価値のない治療に費やしていることになる。そればかりか、そもそも病気でもないのに害となるものを受け入れて健康を損なったり、受けるべき有効な医療の妨げとなって命にかかわることさえある。
二人の著者が取り組んだのは、その問題、すなわち、理屈はどうであれ実質的な効果があるのかないのか、隠れた危険性があったりはしないのかを明らかにすることだ。
~中略~
さて、個々の代替医療の有効性と安全性について下された判定は、おおむね否定的だ。つまり、代替医療には、言われているような医療効果は認められないというのが著者たちの結論なのである。しかし、二人の著者は、代替医療など効くわけがないと決めてかかっていたのでは決してなく、それぞれの治療法の実質を見極めたいという動機にかりたてられていたであろうことを疑うわけにはいかない。

なぜなら、もしも代替医療の有効性が示されれば、それはまぎれもなく素晴らしいことだし、頭から代替医療は役に立たないときめてかかるのは科学的な態度ではない。なによりも、医療の歴史上には、はじめはなぜ効くのかわからなかったが、たしかに有効であることが示された治療法がいくらでもあるからだ―その典型例として紹介されているのが、壊血病の「レモン療法」である。
とはいえ、ホメオパシーのように、プラセボを上回る効果はないことがすでにはっきりと示されているにも関わらず、人気が衰えないどころかますます利用者が増えている代替医療も多い。人びとはなぜ、中身のない治療法であることが示されている代替医療を利用するのだろうか。最大の理由は、治療法の効果に関する事実を知らないことなのかもしれない。
しかし、第Ⅴ章の最後で論じられているように、多くの人が―治療を施す側も、治療を受ける側も含めて―代替医療に心惹かれるのには、それ以外にも理由がありそうだ。
ひとつには、主流の医療に対する不満があることだ。「冷たい主流の医療」に対して、「温かい代替医療」といったイメージを抱く人は少なくないだろう。実際、医療崩壊が指摘される日本の現状を見れば明らかなように、医者が一人ひとりの患者に対して十分な精神的ケアを行うことはきわめて難しいと言わなければならない。

一方、かかった時間に応じて費用を請求することも可能な代替医療ならば、施術者と患者とが満足度の高い人間関係を結ぶ余裕もある。代替医療の繁栄は、通常医療のある方をめぐる問題―実質的に有効な処置をしながら、同時に温かくもある医療が実現できるようにするという政策レベルの難しい問題―の存在を指し示しているというのが、著者たちの指摘する点だ。
温かいと同時に、実質的に有効な医療を目指すというテーマでは、第Ⅵ章でプラセボ効果をめぐる重要な論点が取り上げられている。プラセボ効果はときに非常に大きなものともなるため、たとえ医療そのものに実質的な効き目がなくても、プラセボ効果だけでも十分に意味があるとは言えないだろうか?患者に効果が現れるのなら、それでよいではないか?
これは充分に考慮に値する意見だが、プラセボ効果のみに頼った医療を容認することは、医療全体を暗黒時代に引き戻すことだという点が丹念に論じられる。

もうひとつ、主流の医療に対する不満とともに、科学に対する反感もまた、多くの人が代替医療に心惹かれる理由になっているようにみえる。科学的な医療といえば「人工的」「西洋の」「分析的」といったキーワードで何かを理解したつもりになってしまうことが多いのではないだろうか。こうしたステレオタイプの裏返しを、人びとは代替医療に求めているのかもしれない。
本書では、とくに注意を要するキーワードとして、「ナチュラル」、「トラディショナル」、「ホリスティック」の三つを挙げているが、これらはまさしく科学的医療のイメージの裏返しだ。たとえば、日本でもあらゆるメディアを通じて「天然成分100%」といった言葉が「安全」の同義語であるかのように使われているが、少し考えてみれば、それは単なるイメージ戦略にすぎないことが容易に理解できるだろう(自然はそれほど人間に都合よくは出来ていない)。どうやら代替医療にまつわる三つのキーワードは、私たちの思考を停止させる強力な魅力があるらしい。
したがって、医療との関連でこれら三つのキーワードが出てきたら、むしろ安全性や有効性の実質を伴わないトリックではないかと疑ってみたほうがよさそうだ。
第Ⅶ章の最後には、代替医療を受ける前に知っておきたいことが、「注意書き」の案としていくつか挙げられているが、それらは決して冗談でも皮肉でもないという点に注意を促しておきたい。実際、それらの注意書きは、今日得られているもっともたしかな根拠にもとづいた信頼性の高い内容であり、かけがえのない健康を守るために、私たちみんなが知っておくべき基本的な情報なのである。
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1010年10月29日のブログで「成分が安全かどうか、その問題は、オーガニック、自然、天然、化学、合成、動物由来、植物由来を問わず、全てにおいて同等に関わるものであり、「○○だから安全」「○○は悪い」「○○は良い」ということは決して無いのです。」と解説させていただいたのと同様ですね。