野犬に育てられた女児 - 2025.02.04
先日のブログでご紹介した、ドキュメンタリー番組60MInutesの四つん這いで生きる人々。
四つん這いで生きる人々
同じ番組(60 minutes Australia)で、次は両親に捨てられて、犬と共にサバイブしてきたウクライナ出身のオクサーナという女の子の話をみつけました。アルコール依存症で子沢山の両親は、3歳のオクサーナを外に捨てたそうです。とても寒い夜だったそうで、暖を求めた彼女は野犬が巣にしていた穴ぐらを見つけ、以後その犬が彼女を気にかけ、愛情を与え、親代わりに彼女を守り、情緒的交流のある家族となって共に生きてきたそうです。
結果、本当に犬のように吠えて這っていて、もうアニマルフローどころじゃないですね。しかしこれ、飛び跳ねで膝を地面に打ちつけても痛くないんだろうか(←凡人の素朴な疑問)・・・と思いながら視聴したこの番組の内容があまりにも衝撃的だったので、紹介しますね。
8歳で発見された彼女は、生き抜くために犬と共に生肉と生ごみを手を使わずに食べ、体は舐めて手入れし、床で眠り、コミュニケーション能力も犬として発達していたそうです。オクサーナを発見した人たちが彼女を保護しようとしても、その犬は徹底的に彼女を守りぬいていたそうで、側に近づく事すらとても困難だったそうです。
保護されたオクサーナは、人としての教育をやり直す過程で直立二足歩行や手を使って食べることなどの技術の習得は進んだものの、犬のような振る舞いは根深く染みついており、自然と四つ這い歩きなどが現れていたようです。が、スポンジのように教わったことを吸収し、次第に直立二足歩行が自然な振る舞いになり、沢山の単語をマスターして人としてのコミュニケーション能力も発達していったようです。このように、オクサーナには 「人としての普通 」に適応していく能力があるように見えたものの、その年齢相応の成長には明らかに未達で、その後20年間を介護付きの施設で過ごしけれど、30歳を過ぎてもまだ子どもっぽい傾向が見られたそうです。動画内でも、「孤独を感じると、四つん這いになる。」「私には誰もいないから、犬と一緒に過ごすの」と語っています。
たった5年間犬と過ごしただけのことと思う人もいるかもしれませんが、彼女が犬と暮らした5年間は人としての社会的かつ知的な発達に大きな影響を与え、そのために彼女の精神年齢は5歳のままなのだそうです。昔から「生まれか育ちか(nature vs. nurture)」という議論はありますが、生まれたときに未熟児でもなんでもなかったオクサーナの発育不全は、人を形成し人としての可能性を実現させる上で、養育が大きな役割を果たすことを示唆しています。
この番組では、40歳になったオクサーナは、言葉をしっかりと理解し効果的なコミュニケーションができ、話し方には抑揚がないけれども会話はできる。しかし字を読むことができず、専門家によると、文字を学ぶ能力はもはや無いと考えている、と述べられています。そして2013年の時点で、彼女は農場で動物の世話をして暮らしているそうです。
この番組の後半で紹介されているもう一人の女の子ジェイニーは、救出が遅すぎたケースでした。
1970年末に当時10代だった彼女は発見された時は、実家で椅子に縛りつけられた状態で、おむつをつけたままで、歩行困難でした。発見されるまでほぼ人間との関わりを持たずに育ったため、話す能力もほぼ皆無で極度の栄養失調、歯は2本しかなく、彼女を殴りカーテンを閉めた暗い部屋に約10年近く閉じ込めていた父親が語った幽閉の理由は「ジェイニーの騒ぐ声が耐えられなかったので、何の刺激も与えず暗い部屋に閉じ込めた。」白内障でほぼ盲目のジェイニーの母と息子は父親を恐れて、ジェイニーの扱いをそのままにしており、コミュニケーションを持たなかったそうです。その目は狭く暗い部屋に閉じ込められていたために3メートル以上先のものを見ることができず、運動神経は2歳児並みで、歩く代わりに飛び跳ね、固形物を飲み込むことができず、咀嚼すら難しかったようです。声を出すと殴られるため彼女は沈黙することを学び、他者との交流は情緒的・言語的・身体的にゼロの状態でただ生存していただけでした。
保護されたジェイニーは里親に養育され、心理学者や専門家から教育が施され、彼女自身も周囲の人々や物事に非常に強い関心を持っていたため、回復は大変徐々に進み、その過程はまるで言語習得の臨界期の仮説を覆すようなものだったそうです。しかし結果的には、膨大な量の単語を憶えたものの、いくつかのフレーズを除けば、文法やセンテンスという形での言語習得は不可能だったそうです。
そして他の人間を完全に信頼することもできなかったのか、専門家が養育を担ったこともあったそうなのですが、自ら里親の元を離れ、13年間彼女をネグレクトした実母の元に戻ってしまったそうです。(本能的に生物学的な親に惹かれるものなんでしょうか?)当然のことながら、専門家の介入の必要性を理解しない人達の元でジーニーの状態は急速に悪化し、母親はそれに対処できず、数週間後に再びジーニーは施設に送られ、その後も複数の施設を転々としたようですが、それらの環境は劣悪で再び虐待を受け、現在はLAのどこかの施設にいるらしいのですが、それ以上は不明だそうです。
運動面での発達ではスキャモンの発育曲線が有名ですが、やはり思春期までの育つ過程は本当に貴重なものなのだと思い知らされる番組でした・・・。関連するドキュメンタリー映画も見つけたので、今月はそれを視聴してみます。
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