ロレッタブログ

スマートシティフェスタで出会った、“体幹で操縦する車いす”Feeling - 2025.11.06

新宿中央公園で開催されたスマートシティフェスタとマルシェは同日だったので、フェスタにも寄ってみました。

その中で最も印象に残ったのが、慶應義塾大学高橋研究室・Humoniiによる次世代ハンズフリー車いす「Feeling(フィーリング)」の試乗体験でした。

 


体幹で進む、まったく新しい操作感

Feelingは、手を使わずに体幹の動きだけで進行方向をコントロールできる車いすです。
研究開発を進めているのは、慶應義塾大学理工学部の高橋研究室・Humoniiチーム
この独創的な発想とデザインが評価され、
すでにCEATEC AWARD 2025 モビリティ部門賞を受賞しているそうです。
👉 紹介ページはこちら
👉 試乗動画(YouTubeショート)

実際に乗ってみたのですが、私の体幹の傾きにしっかりと反応し、前後左右への動きが直感的に伝わることに驚かされます。車椅子にこのベルト型の装置を取り付けて、個人に合わせて装着することで、股関節から体幹を前方に傾けると全身し、右に傾けると右へ、左に傾けると左へ・・・と進みます。左に傾け続けるとぐるりと回ることができます!

機械に“動かされている”感覚ではなく、自分の意思で動く感覚を取り戻す設計だと感じました。

Feelingはまだ販売されていませんが、この技術が社会に広く普及すれば、「自立支援」と「尊厳の維持」を両立できる新しい福祉デザインになるでしょう。


「まだ使っていない=必要ない」ではない現実

私はこれまで、介護美容の講師として、杖・車いす・寝たきりの方々を含む幅広い介護度の方と関わってきました。
また、先天性・後天性を問わず、障がいを持つ友人も少なくありません。

長年、障がいとともに生きてきた友人のひとりが、「40歳を過ぎると本当にきつい。疲れやすくなるし、疲れが取れない。もう“頑張り”だけではどうにもならない」と話していたことがあります。
年齢とともに体力や代謝が変化し、“これまで通りにできていたこと”が難しくなる。
その現実は、健康な人にとっても他人事ではありません。


データが示す「潜在的な支援ニーズ」

第一生命経済研究所の調査(福祉用具の利用と満足度)によると、現在「杖」「車いす」「特殊寝台」を利用していない人でも、約2割が「本当は必要だと感じている」そうです(潜在需要者)。
また、「車いすの操作を難しいと感じる」と答えた人も約3分の1
にのぼります。

利用状況別でみますと、つえに対して「使う費用は自分にとって高い」「自分が使うの
は恥ずかしい」と思う人の割合は、いずれもつえを使っている人と使っていない人とで5
ポイント未満の差しかありません。一方、車いすに対して「自分が使うのは恥ずかしい」
と思う人の割合は、車いすを使っている人よりも使っていない人でかなり高いようです。
また、車いすに対して「自分や家族が操作するのは難しい」と思う人の割合も、車いすを
使っていない人の方がやや高いですが、車いすを使っている人においても3割を超えてい
ます。

在宅の要介護者 500 名に聞いた福祉用具の入手・利用の現状 

さらに各種統計では、60代以降で杖を必要とする人は約10〜15%、車いすは約5%前後
比較的健康な65歳以上でも、男性の5.7%・女性の9.2%が日常的に杖を使用しており、要支援に該当すると男性51.7%・女性71.8%と急増します。
この傾向は70〜80代でさらに顕著になります。

つまり、「まだ使っていない=必要ない」ではなく、“必要性を感じながらも使えていない人”が一定数存在するということ。
このギャップを埋めるのが、Feelingのような“人に寄り添うテクノロジー”です。


自立を支える科学、尊厳を守るデザイン

こうした次世代の福祉機器には、単なる利便性を超えて、「自分の意志で動く感覚」を取り戻すための心理的リハビリテーションの要素もあります。

介護の現場では、“できることを奪わない支援”が何より大切です。
身体機能のサポートだけでなく、その人の尊厳と自己効力感を保つ設計思想が求められます。
Feelingのような製品は、まさにその哲学を体現していると感じました。


 

心の自立を支える技術でもある

車いすを必要とする方の中では、うつ状態や抑うつ症状を経験する割合が一般人口より明らかに高いことが報告されています。
日本の研究によると、脊髄損傷によって車いす生活となった人の約34%がうつ状態を発症しており、そのうち重度の大うつ病に該当するのは約0.5%、大部分は軽症〜中等度の抑うつ状態です。
また、在宅で生活する脊髄損傷者を対象とした研究では、約15〜16%が慢性的なうつ状態にあるとされ、海外では受傷後6か月以内に一時的な抑うつ症状を示す人が40〜45%に達することも報告されています。
(参考:Neurotech Japan 医療情報日本リハビリテーション医学会誌

こうした背景には、身体の自由を制限されることによる心理的ストレスだけでなく、社会参加の減少や環境バリアによる「行動の制限」が心に及ぼす影響もあります。

だからこそ、Feelingのように自分の意思で身体を動かせる感覚を取り戻す設計は、単なるモビリティ支援ではなく、心理的なリハビリテーションの一助にもなり得ます。
「自分で動くことができる」という実感は、心の回復と自尊感情の再構築を支える力を持っています。


未来の自分ごととして

体力の低下や運動不足を感じている方にとって、こうした資料は単なる統計ではなく、
未来の生活設計図としてのヒントになります。
数字の向こうにある現実を、自分の暮らしと重ねて考えることが、予防と備えの第一歩です。

また、交通事故や病気などによって、思いがけず車いすの生活になることもあります。
全ての人が、決してその可能性と無縁ではありません。
だからこそ、今のうちから「自分の身体をどう守り、どう使い続けていくか」を意識しておくことは、
年齢を問わず、誰にとっても大切な“未来への準備”なのだと思います。

Feelingはまだ開発段階にありますが、今後の実用化に大きな期待を寄せています。
テクノロジーが「介護のため」ではなく、「自分らしく生きるため」に進化していく未来を、一人の専門家としても、そして一人の生活者としても楽しみにしています。