ゲラン「サムサラ」──20代から今も変わらない、私の冬の相棒 - 2026.02.07
先日のブログに記した就寝前の香りのサムサラ。どんな香りかご質問いただいたので、今日はその話題。
香りとピラティスと手帳。変わらない習慣がつくる一日

深いルビーの赤に、なめらかな曲線。私の記憶の中のサムサラのボトルは、あの特徴的な赤いフラスコ型のデザインです。
このボトルを見ると、今でもこの香りを愛用されていたお客様方のお顔が浮かびます。「少しだけその方の香りをお借りしているような気持ち」と「あの方は今もお変わりなくお元気でいらっしゃるといいな」という思いが、自然と胸の中に立ち上がってきます。
サムサラという名前は、サンスクリット語の言葉に由来すると言われていて、どこか「時がめぐる」ような響きを持っています。昼と夜、季節のうつろい、人の出会いと別れ。そのすべてを静かに受け止めるような、穏やかで官能的な香りです。
サムサラは、ジャスミンとサンダルウッドを主役にしたウッディ・オリエンタルのフレグランス。しっとりとした白い花々の甘さに、インドの寺院を思わせるサンダルウッドの深みが重なり、肌の上でゆっくりと温度を帯びていきます。強さとやさしさが同居した少しドラマティックな香り。それでいて、どこか内省的で静かなところが、ずっと好きで手放せない理由かもしれません。
フレグランスは90年代ごろからフレグランスはよりライトでカジュアルな香りに偏ってきていますが(カルバン・クラインのCK Oneが90年代の代表例)、私はトレンドを追うよりも我が道を行きたいので、香水のようにパーソナルなアイテムを「流行っているから」「有名人がつけているから」で購入することは、まずありません(笑)。

近年は、ゲランのフレグランスのボトルデザインが全体的に統一されてきていて、サムサラも現在は透明なガラスに赤いラベルを配したデザインにリニューアルされています。
レジェンダール コレクションとして、オーデトワレとオーデパルファンの2種類が展開されていますが、個人的にはサムサラに関してはオーデパルファンをおすすめしたい香りです。
https://www.guerlain.com/jp/ja-jp/p/les-legendaires-samsara—eau-de-parfum-P014316.html
フレグランスというと、日本ではどうしても「価格も軽めなオーデトワレ」を選びがちですが、オーデパルファンの方が全体の輪郭がなめらかで、調香師が意図した世界観がより立体的に伝わってきます。少量を肌になじませるだけで、アルコールのツンとした角が出にくく、香りが長く続くのにうるさくならない。頻繁に付け直す必要もないので、結果的に周囲にも自分にも、いちばん心地よい濃度で楽しめると思います。香りの詳細は、ゲラン公式サイトでもご覧いただけます。
私がサムサラに出会ったのは、20代でゲランに勤めていた頃でした。ブランドの世界と香りに日々何年間も浸かっていた中でこの香りに触れ、「ああ、こういう香りを“物語のある香水”と言うのだな」と心をつかまれました。それ以来、冬になると必ず手元に置いておきたい、いわば「マイ定番のゲラン」の一本になっています。


当時は、サムサラにはボディタルク(ボディパウダー)もありました。このタルクの香りも、本当に大好きでした。ゲランのボディトリートメントでは、あるメニューでオー・インペリアルの香りのボディクリームを使うコースがありました。施術の最後、お客様がベッドから降りやすいように足元をホットタオルでていねいにお拭き取りし、そのあとにサムサラやシャリマーなど、名香のタルクでさらりとお仕上げするのが定番の流れでした。
クリームのしっとり感がほんのり残る素肌に、名香のタルクがふわりと重なる瞬間。肌の手触りも、香りのニュアンスも、施術者の私自身が幸せでうっとりしてしまうような時間でした。20代から愛用している香りは、やはりゲランのものが多いのですが、どのフレグランスにもその時代のお客様の顔が浮かびます。
「この香りはあの方のもの」という感覚は、今でもはっきり残っています。シャリマーの方、ミツコの方、シャンゼリゼの方、ランスタン・ド・ゲランの方……ゲランの名香ごとに、当時の常連様のお名前と表情が自然と重なります。香りは、その人の歩んできた時間やライフスタイルと結びついて記憶されていくのだなと実感させられる瞬間です。
サムサラには、当時の世界観を感じさせるCMもいくつかありました。今見ると少し時代を感じる映像ではありますが、赤いボトルとともに、官能的でありながらどこか凛とした女性像が描かれていて、この香りの持つ空気感がとてもよく表現されています。YouTubeに当時のCM映像が残っていますので、興味のある方はぜひご覧になってみてください。
一方で、私はサロンワークやスタジオワーク中にフレグランスをつけることは基本的にしていません。香りは、時に人の体調や気分に大きく影響します。特にエステやピラティスでは、お客様自身のコンディションや呼吸、身体の感覚に集中していただくことを大切にしていますし、距離も近いので、空間の香りはできるだけニュートラルでありたい、というのが私の考えです。
その代わり、仕事を離れたプライベートの外出時には、必ず何かしら香りをまといます。寒い時期のお供は、ほぼサムサラ一択です。コートの裏地やマフラーにふわっと香りを移しておくと、外気の冷たさとのコントラストで、ジャスミンとサンダルウッドの余韻が一層くっきり立ち上がります。人混みの中でも自分の輪郭を保てる、ささやかな「お守り」のような存在です。
ここ数年は、プライベートでどこかへ遊びに出かける機会は、正直あまり多くありません。それでも、昔から変わらず続けている習慣があります。就寝前に、サムサラを数プッシュ、部屋と自分の周りにまとわせることです。


よい夢が見られそうな気がしているのですが、たいてい翌朝には夢の内容など、ひとかけらも覚えていません。ただ、私とフィーちゃんが、眠っている間じゅうほんのりいい香りになっているだけです(笑)。寝ていると自分では香りも認識していないので(おそらく嗅覚や脳はミドルノートやラストノートにも反応しているのだとは思いますが)、実際のところは吹き付けたその数分間のトップノートだけ自己満足的に楽しんでいます。それでも、その「香りに包まれて一日を終える」という小さな儀式が、日々の疲れをリセットし、明日の自分を少しだけ丁寧に扱おうと思わせてくれます。これも、かれこれ20年くらい続いている習慣ですね。
日中は無香のプロフェッショナルとして仕事をし、夜は誰にも邪魔されない香りの世界に戻っていく。この切り替えのリズムそのものが、私にとっては一日の「句読点」のような役割を果たしています。同じ一日の繰り返しに見えても、その日の気温や疲れ具合、心の状態によって、香りの感じ方は少しずつ変わります。
20代でゲランのカウンターに立っていた頃から、エステティシャンとして、そして今はピラティスインストラクターとして。人生のステージが変わっても、私のそばにはずっとゲランの香りがあります。赤いボトルのサムサラは、その中でも特に長く寄り添ってくれている一本です。
今愛用中のボトルは無くなりかけているのですが、それを使い切った先も、きっと冬が来るたびに、私はサムサラを手に取り、同じように数プッシュ纏うことを続けるのだろうな、と思います。
