【後編】ピラティスは振付ではなく技術。グループとパーソナルの正しい使い分け - 2026.02.01
前編では、
・グループレッスンの構造的な限界
・ビュッフェと病院食の例えで見る、グループとパーソナルの違い
・「汗をかいて疲れた=正解」とは限らないこと
についてお話ししました。
後編では、なぜ「質」と「設計」がこれほど重要なのか、そしてグループレッスンとプライベートセッションをどう使い分けると良いのかについて、もう少し踏み込んでお伝えします。
4.ピラティスブームと“ペーパードライバー指導者”の現実
私のレッスンでは、
「このエクササイズって、こういう意味だったんですか!」
「ずっと動き方を間違って解釈していました。こう動けばいいんですね」
「同じ種目なのに、肩と首が全然しんどくないです!」
「これまで受けたセッションで、一番わかりやすいです」
と驚かれることが本当に多くあります。
これは、私が特別だからというよりも、「今のピラティスブームの構造上、そうなるよね」という感覚に近いです。
空前のブームの中で、養成コースの数も一気に増えました。
それ自体は悪いことではありませんが、
・短期間の講座で最低限の資格だけを取ってすぐ現場デビュー
・マニュアル通りには進行できるが、応用や修正の引き出しが少ない
・“ピラティスが目指す動き”そのものを、まだ自分の体で十分に腑に落とせていない
という、いわば“ペーパードライバー的なインストラクター”も、現実には相当数いるはずです。また、団体や企業によっては、ある程度の金額を払えばインストラクターになったばかりの素人同然の人でも養成コースの指導者になれたりします。ペーパードライバーがペーパードライバーを指導しているという現実がありうるのです。
この状況でインストラクターがグループクラスやプライベートセッションを担当することになれば、インストラクター自身が
「このエクササイズは何を狙っているのか」
「どこから先は代償動作で、どこまでが許容範囲なのか」
を理解しきれていないまま、「とりあえず決められた時間内に決められた振り付けをやらせる」ということにフォーカスしてお客様を指導することになります。
そうすると、お客様が
・エクササイズの意図を誤解する
・「頑張れば頑張るほど肩と首がつらくなるフォーム」を正しいと思い込んでしまう
のは、ある意味で当然の流れです。お客様は体の動かし方がわからないからこそ教わりにきているのですから。したがって、これはお客様個人の問題ではなく、「提供側の準備不足」や「仕組み側の問題」と言えます。
5.「努力不足」ではなく、プログラミングと質の問題かもしれない
ある程度の回数、グループレッスンや“手ごろ感のある”プライベートセッションに通っているのに、
「何カ月経っても、姿勢や痛みに大きな変化がない」
「レッスン中も、終わったあとも、いつも同じ場所だけがしんどい」
「ちゃんと通っているのに、なんだか停滞している気がする」
という場合、多くの方は
「自分の頑張りが足りないのかな」
「もっと回数を増やさないといけないのかな」
とご自身を責めてしまいます。
けれども現場の感覚としては、かなり高い確率で
・プログラミング(何を、どの順番で、どの頻度で行うか)
・動作の質(フォーム、キューイング、負荷設定の精度)
の問題が大きく影響していると感じます。
もちろん、体重管理や食事、睡眠といった生活管理は、ご自身の側で取り組むべき大前提です。その土台が崩れていれば、どんなに優れたセッションでも成果は限定的になります。
ただ、その前提を徹底的に満たしたうえでなお体が変わらないのであれば、一度「どんな料理を、どんなレシピで、どんな火加減で作っているのか」にあたる運動側の設計そのものを、プロの視点で見直した方が早いケースが多いのです。
不思議なことに、多くの方はバッグや靴、車といった“モノ”の扱いにはとても気を遣うのに、ご自身の身体の扱いとなると、途端に雑になってしまうことがあります。けれども、本来いちばん大切に扱うべきなのは、買い替えのきかない自分の身体そのものです。
唯一無二の資産であるはずの身体を、「とりあえず皆と同じメニューで何とかなるだろう」とまとめて扱ってしまうのか、それとも今の自分に合った運動処方をプロと一緒に設計するのか。その扱いの違いが、数年先・十年先のコンディションに静かに効いてくるのだと思います。
6.ピラティスは「振付」ではなく技術。グループレッスンや自主練にも順番があります
ピラティスは、本来「なんとなくそれっぽく動けばいい振り付け体操」でも「リフォーマーの上に乗ってストラップを引いて振り回せば勝手によくなる仕組み」でもありません。ひとつひとつのエクササイズに、どの関節をどの方向に動かしたいのか、どの筋肉をどのタイミングで働かせたいのか、どのくらいの呼吸のリズムとスピードで行うのかといった「設計図」が細かく組み込まれている、技術職に近いメソッドです。
ところが、多くの方はご自身の体を「頭でイメージした通りに」動かす力がまだ十分に育つ前の段階でグループレッスンに参加したり、動画を見ながら自己流の自主トレを始めたりします。その状態だと、本人の感覚としては一生懸命に真似をしているつもりでも、実際に動いている軌道や力の入れどころは、設計図から微妙に、時には大きく外れてしまっていることが少なくありません。
ロケットの軌道は1㎜ズレると、宇宙では意図していなかったとんでもないところに到達してしまいます。身体も、どの角度、どの順番、どの起動で、どのぐらいのスピードで動かすのかという精度・正確性ありきなのです。見よう見まねでやみくもにこなすと、意図していなかったとんでもないバランスの体や姿勢に到達してしまいます。
これを無視していると、見た目だけは「ピラティスの形」をしているのに、中身はまったく違うものが出来上がります。いわば「ピラティス風の振付」だけが体に残り、肝心の
・ピラティスで使われるべき呼吸
・インナーやコアが働く順番
・関節を守るための各関節の安定の取り方
・呼吸と動きの連動
は身についていない状態です。その結果、実際にはお腹やお尻ではなく、首・肩・腰などに無理をかけてアウターマッスルばかり総動員していたり、関節に余計なねじれや圧縮ストレスをかけていたりするケースを、現場では決して少なく見ません。

さらに厄介なのは、グループレッスンや自主トレの場には、常にそばで「今のは方向が違います」「ここから先は動かし過ぎなので、この位置で止めましょう」と細かく修正してくれる人がいるとは限らない、という現実です。多くのグループクラスでは、一人ひとりの細部まで見続ける時間的余裕はどうしても限られますし、自主トレに関してはそもそもチェックする人が誰もいません。
たとえグループの中でインストラクターが時々修正を入れてくれたとしても、それはあくまで「クラス全体の安全を守るための最低限の修正」が中心になりがちです。
同じ人の動きを、何十時間分も積み重ねて観察し続けるプライベートセッションとは、見える情報の量も、介入できる質もまったく違います。
一人のクライアントに対して、呼吸や癖の出方、微妙な違和感の訴え方まで含めて細かく追いかけ続けることができるのは、「その時間中、インストラクターの知識と経験と最新の注意を自分のためだけに丸ごと独占できる」パーソナルならではの強みです。
その結果、漫然とグループクラスに参加したり、やみくもに行う自主トレでは、思ったほど姿勢や動きが変わらないどころか、痛みやケガが増えてしまうという、いちばん避けたい結末になってしまうのです。
インストラクターとして、私は実際にそうした方々を何人も目の前で見てきました。
グループレッスンや自主トレを「とにかく量をこなすこと」に全力で費やし、肝心の質をなおざりにしてしまった結果、あちこちの関節の痛みが増え、誤った動き方がどんどん強化され、ご本人が気にされている猫背や反り腰などの「悪い姿勢の特徴」が、むしろ極端に強調されてしまっているケースです。
ご本人は「ちゃんと通っているのに、どうして良くならないんだろう」と真面目に悩んでいらっしゃいます。むしろ努力家だからこそ、間違ったフォームのまま回数だけを重ねてしまい、その分だけ体への負担とクセが深く刻み込まれている――そんな、切ないパターンを、現場では決して珍しくなく目にします。実際に私のスタジオでも、「15年間プライベートセッションを受けてきました」という人が、呼吸も腹筋も何1つまともにできておらず、愕然としたことがあります。
だからこそ私は、特に最初の2〜3年くらいは、「量と質の両方」を最優先してほしいと考えています。グループレッスンや自己流の自主トレを増やす前に、まずは信頼できる指導者とのプライベートセッションを、最低週2回(理想は週3回以上)を目安に確保し、その時間を「正しい型と、安全な負荷の基準を体に覚えさせる期間」として使っていただきたいのです。
この土台の時期に、ていねいに「それは違うよ。この順番で動くよ」と修正され続けながら、ピラティス本来の型とご自身の体を少しずつすり合わせておく。そうしていったん基礎が入ってしまえば、そのあとのグループレッスンや自主トレは、ぐっと安全で、効果的で、何よりも楽しいものに変わっていきます。質の高いプライベートセッションで、徹底的な反復練習で基礎を身につけたことにより、ご自身が救われることになるのです。
また、前述のペーパードライバーインストラクター激増の現状を踏まえて今一度強調しておきますが、
プライベートセッションだからといって、決してまともなインストラクターが教えているとは限らない
ということも、予め知っておくことは、皆様がご自身の健康を主体的に守るためにも必要だと考えています。私自身も近年様々なプライベート、グループの両方のセッションを体験してきて、インストラクターの質の低さを強く感じている・・・というのが正直な実感です。
7.グループを否定しない。でも「プライベートの代用」にはなりません
ここまで読むと、「グループレッスンは良くないのかな?」と不安になった方もいるかもしれません。
私自身は、グループレッスンには大きな価値があると思っています。
・運動のきっかけとして始めやすい
・誰かと一緒に頑張る楽しさがある
・コストを抑えて週の運動量を増やしやすい
といったメリットは、特に運動が苦手な方にとって大きな支えになります。
もし、「やりたい動きをやりたいように、自分の好きなように動きたい。自分の運動の目的は楽しく動くことであり、姿勢や動作の改善やケガ・故障の予防ではない」という方であれば、その価値観自体を否定するつもりはありません。好きなように体を動かす時間を楽しむのも、大切なセルフケアの一つです。ただし、その結果として生じる痛みや故障を引き受けるのも、自分自身しかいない、ということはよく心得ておく必要があります。自分の代わりにケガをしてくれる人はいませんし、「好きなようにやった結果」の蓄積は、必ずご自身の体にだけ返ってきます。
問題なのは、
「姿勢や動作の改善をしたい。自分の体が何かバランスを崩しているから痛かったり疲れやすかったり、ケガや故障があるのだと自覚している。ただし、それに対してどのような運動や負荷で動けばよいのか分からない」
という方が、やみくもにグループレッスンや自主トレだけを続けてしまうケースです。
この場合、「頑張っている」こと自体は素晴らしいのですが、ご自身の目的に対する選択がそもそもずれているために、結果的に症状の悪化や増悪のリスクだけを高めてしまいがちです。
先ほどの食事の例えで言えば、慢性疾患やアレルギーのある人が、「自分には配慮が必要だ」と理解していながらも、一般客向けの飲食店やビュッフェだけを日常使いし、成り行き任せでメニューを選び続けているような状態です。
それで疾患やアレルギーが悪化しないことを期待するのは、なかなか難しいのではないでしょうか。
グループレッスンを「安価なプライベートの代わり」「まとめて面倒を見てもらえる場所」と考えてしまうと、どうしても期待と現実のギャップが大きくなります。プライベートセッションは、あくまで「その人の条件に合わせた運動処方を組み立てる場」であり、グループとは前提から全く違うサービスです。
例えば、
・長年の肩こり・腰痛・膝痛がある
・猫背や反り腰など、姿勢のクセがはっきりしている
・更年期症状などでコンディションが揺らぎやすい
・手術歴や持病があり、不安なく動きたい
こういった方は、「とりあえずみんなと同じクラスに紛れ込む」よりも、一度プライベートで現状を整理し、「今の自分には何を減らし、何を増やすべきか」を明らかにしてからグループをどう使うかを決めた方が、安全性も効果もはるかに高くなります。それは、100回のやみくもな動作よりも、1回の正確な動作のほうが遥かに姿勢改善や機能改善に有効だからです。
グループとプライベートは、どちらが偉い・下という上下関係ではなく、「担当する領域が違う、完全に別物のサービス」。その前提を共有できると、ピラティスとの付き合い方もずっとすっきりするはずです。
8.中野坂上で「体の使い方そのものを学び直したい」方へ

中野坂上のプライベートサロン Loretta では、
・姿勢改善ピラティス
・根本改善ピラティス
・中野区でピラティスパーソナルを探している30〜60代の方
を中心に、「体の使い方そのものを学び直す」ことを大切にしたセッションを行っています。
同じエクササイズでも、
「このエクササイズって、そういう意味だったんですか!」
「ニュートラルとインプリントって、こういう風に使うんですね!」
「エクササイズを間違って解釈していました。こんな風に動けばいいんですね!これなら腰が辛くないです。」
「肩と首が全然しんどくないです!」
と驚かれることが多いのは、
・その方の年齢・体力・既往歴・生活背景を含めて
・何を優先して変えるべきかを整理し
・そのうえで必要な動きを必要な分だけ、丁寧に積み重ねる
という“個別の運動処方”を大事にしているからです。
グループレッスンや、手軽なパーソナルに一定回数通ったのに、
「正直、あまり変わった実感がない」
「むしろ、しんどさばかりが増えている気がする」
という方は、一度「体の使い方の前提」から整え直してみるタイミングかもしれません。
ビュッフェで何となく取り続けるより、一度プロと一緒に、自分の体質や生活に合った“食事設計”を見直す。運動も、それと同じ発想で、「これからの10年、20年の身体」を一緒に組み立てていきましょう。
