ロレッタブログ

「からだの声」が聞こえない時代に。内受容感覚というもうひとつのセンサー - 2026.02.19

食と心3部作を書きながら、ずっと頭の片隅にあったテーマがあります。
それが、「内受容感覚(インタロセプション)」というキーワードです。

ここでいう「からだの声」は、ちょっとスピリチュアルな意味合いではありません。
お腹が空いた、苦しい、ドキドキする、寒い、疲れた、痛い、気持ち悪い……。
こうした、体の内部で起きている変化をキャッチするためのセンサーのような感覚のことを、心理学や神経科学の分野では「内受容感覚」と呼びます。

私たちは日々、この内受容感覚からの情報と、外界からの情報を組み合わせて、「今、自分はこう感じている」「これをしたい・したくない」と判断しています。
ところが、強いストレスや、長年のむちゃ食い・過食・極端なダイエットなどを経験していると、このセンサーがうまく働きにくくなることがあります。

「お腹が空いているのかどうか分からない」
「満腹のはずなのに、止めどころが分からない」
「疲れているのに、疲れていると感じにくい」
「しんどくても、我慢してしまうことに慣れすぎている」
「生活習慣病や肥満や過体重なのに呑み会や暴飲暴食をやめられない」

こういった状態は、単に「意志が弱い」「自己管理が苦手」という話ではありません。
からだの内部状態をキャッチするセンサーの感度がかなり落ちていたり、キャッチした情報をきちんと意味づけて処理する脳や神経の回路が上手く働いていなかったりする可能性があります。

ここが、私が「内受容感覚」というテーマを取り上げたいと思った理由です。


 

内受容感覚が乱れると、何が起きるのか

内受容感覚の研究は今も進行中ですが、ざっくりまとめると、こんな影響が報告されています。

・食欲や満腹感のサインに気づきにくくなるので、肥満や過体重が進行する
・ストレス状態が慢性化しても、自分で気づきにくいが、実際の行動はおかしくなっている
・「なんとなく不安」「なんとなくイライラ」が続きやすいのに、おかしいと気づかない
・明らかに危険レベルの疲労や体調不良や生活習慣病を、「まだ大丈夫」と無視しがちになり、ある日倒れる
・逆に、体のわずかな違和感に過敏になりすぎてしまう場合もあり、メンタルが不安定になる

つまり、「からだの声」がうまく聞こえないと、
必要以上に無理を続けてしまったり、逆に、ちょっとした不調に振り回されてしまったりといった、両極端な反応が起きやすくなります。

食との関係でいえば、本来であれば
「お腹が空いたので、適量を食べる」
「満腹なので、ここでやめておく」
というブレーキやアクセルの役割を果たすはずの感覚が、うまく働きにくくなります。

その結果として、むちゃ食い・過食・拒食・極端な制限など、食を通して心のバランスを取ろうとする行動が強まってしまうケースもあるとされています。

「心の問題」だけでもないし、「栄養の問題」だけでもない。
指のクリック&スワイプ動作と、目から入ってくる外的刺激に心を奪われすぎてしまっている現代人には、この「心の問題」と「栄養の問題」の間にある、からだのセンサー機能そのものに目を向ける視点は、今後ますます重要になっていくのではないかと感じています。


 

内受容感覚は生まれつき決まっているのか?

ここで気になるのは、「内受容感覚は生まれつきの体質なのか、それとも変えられるのか?」という点かもしれません。

結論から言うと、個人差はあるものの、「トレーニングや習慣によってある程度は変化しうる」と考えられています。
ただし、「今日から意識すれば、すぐに変わる」といった簡単な話ではありません。

なお、発達特性(自閉スペクトラムなど)をお持ちの方の中には、この内受容感覚がとても敏感な部分と、逆に鈍くなりやすい部分が混在しているケースも報告されています。ここは医療や支援の専門領域にあたりますので、サロンでは診断や治療は行わず、「いまここで感じているからだの状態を、一緒に安全に観察していくこと」に焦点を当てています。

例えば、長年にわたって

・常に忙しく、休息を後回しにしてきた人
・「我慢強さ」や「責任感がある人」「頑張り屋さん」「真面目でしっかりしてるね」で評価されてきた人
・食べることをストレス発散の手段として使わざるを得なかった人
・過激なダイエットやボディメイクで、空腹や疲労のサインを無視することに慣れてしまった人

こういった背景がある場合、「からだの声」を無視することこそが、生き延びるための戦略になっていたことも多いからです。

その戦略のおかげで、これまで何とか日常を回してこられた側面もあるでしょう。
ですから、「今までの自分は間違っていた」「自分はおかしい」と責める必要はまったくありません。

大切なのは、「これから先も、同じやり方で走り続けて大丈夫か?」と、一度立ち止まってみることです。
年齢やライフステージが変わるにつれ、からだの耐久力や回復力は、少しずつ確実に変化していきます。

その変化に合わせて、「からだの声」の聞き方をアップデートしていく。
そのひとつの鍵が、内受容感覚です。


 

ヨガマットの上でチャイルドポーズになり、背中や呼吸の感覚に意識を向けながら静かに休んでいる女性のイメージ

サロンでできること・できないこと

内受容感覚は、心の状態とも深くつながるテーマです。
トラウマやうつ状態、摂食障害などが関わっている場合は、医療や専門的な心理支援が不可欠な領域でもあります。

そのため、当サロンは「治療の場」にはなりませんし、私も医師や臨床心理士ではありません。
むちゃ食いや摂食障害、強い抑うつ状態などが疑われる場合は、これまでのブログでもご紹介してきたように、医療機関や専門機関への相談を強くお勧めしています。

一方で、サロンだからこそお手伝いできることもあります。それは、

・からだの状態を客観的に観察するお手伝いをすること
・呼吸や姿勢、動きの質を整えながら、「今、体のどこがどう感じているのか」に少しずつ注意を向けていくこと
・スキンケアやタッチングを通じて、「触れられる感覚」「触れる感覚」を安全に味わい直していくこと

といった、「からだを通して、自分自身とのつながりを少しずつ取り戻していくプロセス」です。

ピラティスのセッションでは、呼吸を整えながら「骨や関節の位置」「1つ1つの関節の動きやその方向」「筋肉の伸び縮みする方向」「身体の軸の探索」「無駄な緊張の有無」を、その都度確認していきます。いわば、「動きながらからだの声を聞き直す時間」です。内受容感覚が低下している方にとっても、マシンやインストラクターのガイドを借りながら、少しずつ自分の感覚を取り戻していく練習になりやすいと感じています。このあたりは、別のブログで改めて、ピラティスとの関係を詳しく書いてみようと思います。

内受容感覚は、頭で理解するだけでは変わりません。
からだを動かすこと、呼吸を深めること、今の皮膚や筋肉・関節の感覚に気づく練習を重ねる中で、少しずつ「センサーの感度」が変わっていくものだと感じています。それには、非常に深いレベルの内観と静かな環境、そして集中力と定期的な練習が必要です。これが、当サロンがセッション中に騒がしい音楽をかけない理由です。(フィガロ君の「ニャー」は聞こえてきますが・・・)


 

「からだの声」を取り戻すための、ささやかなヒント

最後に、「内受容感覚を整える」と聞くと難しく感じてしまう方に向けて、日常生活の中でできる、ささやかなヒントをいくつか挙げておきます。

1.食事の「最初の3口」と「最後の3口」を、少しだけ丁寧に味わってみる
今、どんな味がするか、温度や食感はどうか。
お腹や胸のあたりはどんな感じか。
たった数十秒でも、「ながら食べ」から離れる瞬間をつくるだけで、内側の感覚に気づくきっかけになります。

2.一日のどこかで、「呼吸チェックの1分」を持つ
仕事の合間や、電車を待つ時間、寝る前などに、
「今、自分の呼吸は浅いか深いか」「胸郭とお腹、どちらがよく動いているか」を、評価せずに眺めてみます。
それだけでも、「今の自分」の状態をモニターする習慣になります。

3.疲れを感じた時、「どこが」「どんなふうに」疲れているか言葉にしてみる
「なんとなくしんどい」で終わらせず、頭が重いのか、目が疲れているのか、肩や背中がこわばっているのか、気持ちがぐったりしているのか。
ざっくりで構わないので、言葉にすることで、からだの声と心の声を少しずつ仕分けしていきます。

4.休憩時間は、たとえそれが5分間でも1時間でも、スマホやPCから離れて、ただぼーっとする時間にする。

どれも「それだけで劇的に変わる魔法」ではありません。
ですが、こうした小さな積み重ねが、内受容感覚というセンサーの再調整につながっていきます。

食と心3部作で書いてきたように、食の問題は、単に「何をどれだけ食べるか」だけでは語り尽くせないテーマです。
栄養、メンタル、環境、そして今回の「からだのセンサー」。
これらが複雑に絡まり合って、今の「食と心」を形づくっています。

もし、今の自分の食との付き合い方や、疲労感・不調との距離感にモヤモヤを感じている方がいらっしゃったら、外ではなく、定期的にご自身の「からだの声」にじっくりと耳を澄ませてみる価値はあると思います。ぜひ試してみてください。

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