ロレッタブログ

ビューティー・ジャンキー - 2012.02.15

今年は手に取った本に当たりが多いですよ!!今回のブログはちょっと引用が長いですが、とても興味深いです。
ビューティ・ジャンキー―美と若さを求めて暴走する整形中毒者たち /アレックス・クチンスキー/ バジリコ刊

脂肪吸引、豊胸、フェイスリフト、ボトックス注射──『ニューヨーク・タイムズ』紙の人気女性ジャーナリストによる、みずからの整形体験も交えた、鮮烈でウィット溢れる渾身のレポート
以下、帯の紹介。

本書に登場するビューティ・ジャンキー(美に取り憑かれた人びと)
●一日二四時間美しい容姿の維持に専念して手間を惜しまないニューヨークの女性たち
●南アフリカに「整形サファリツアー」に出かけ、魔法のように若返った容姿で野生動物と一緒にカメラに収まる患者たち
●七〇〇ドルのジミーチューの靴をはきたい女性に「足のフェイスリフト」を施すマンハッタンの足病医
●ポーカーフェイスを保つためにボトックス・ジャンキーになるニューヨークの男性弁護士
●顔同様全身たるみなくピンと張った状態にするために最もプライベートな部分を整形する女性
●両親から卒業祝いに胸インプラントを贈られる女子高生
高須クリニック院長・高須克弥氏推薦!
「成長を続けるアメリカ美容整形ビジネスの光と陰! 日本美容医療業界の将来を予見する力作」

------------------------------------------------------------------------------------------—-
アメリカは自助努力の国であり、自己改造や自己創造こそが能力主義のシグナルである社会、勤勉や巧妙さや魅力によって目標を達成する社会だ。では自己改造よりもすばらしいものは何か?再創造だ。ちょっとでもほころびが見えたら間髪をおかずに自分自身を取り替えられることである。
「アメリカの人には、手術を減らすように説得しなければいけないんですよ。とにかく頭からつま先まで全部やってちょうだい、ですからね。」
セルビアのテロリストが1914年の春の日にフランツ・フェルディナント大公を暗殺していなかったら、おそらく人気セクシー女優パメラ・アンダーソンの存在はなかったことだろう。実際、顔のピーリングから眉毛リフトに至るまで現在の美容技術のほとんどは、源を第一次世界大戦とその直後数年間にもとめられるのだ。戦闘中に受けた傷、損なわれた容貌を外科医が直したのがそもそもの始まりである。人体に対してなされ得る、それまでになく見るも無残な暴力の痕跡がこれでもかというほど残された。
大戦以前に知られていた武器に比べて爆弾は強力になり、弾丸のスピードはやるかに強く破壊力も大きくなった。外科医は創意工夫を凝らして腕を振るい、めちゃめちゃにされた人体を元通りに修復しなければならなかった。
平均的な大卒者が就職する場合、現在では生涯で少なくとも七つの会社で七つの職種を経験することになる。長年仕事をしていても、町から町へと移動の連続で、同僚とよく知り合えないままおわってしまうかもしれない。互いの短所や癖など、その人ならではの特色を知る長年の友人や家族はほんの一握り、ということもあるだろう。
つまり、移動を繰り返す典型的なアメリカ的生活を送るアメリカ人にとって、もはや周囲の顔ぶれが毎年同じだとは限らなくなっているのだ。自分の世評を名刺代わりとしてあてにできないとすれば、彼らが頼れるものは、容貌と、好意的な第一印象を与える能力しかない。

歴史家ジョアン・ジェイコブス・ブランバーグは「the body project」で容姿に関する思いが一世紀の間にどう変化したかを10代の少女の日記から考察した。第一次世界大戦前の少女は自己改善について、身体ではなく性格や知性を形作るものとして記した。「決心した。自分のことや感情は話さない」―1892年、ある少女は日記にそう書いた。「話す前に考える。物事に真剣に取り組む。会話も行動も自制。キョロキョロしない。堂々とする。もっと他人に関心を持つ」。
それが1982年には、10代の少女の日記を見ると、体や顔という外見の工場が自己改善の1つの目標となっている。「今までにためたおこづかいとベビーシッターのバイト代をつかって、できるだけきれいになれるようがんばる。体重を減らす。コンタクトレンズにする。この前髪型は新しくしたし、上等の化粧品と新しい服とアクセサリーも買った」

現在社会では、日常生活において社会を構成する要素はバラバラに分断されている。こういう世の中だと、人を判断する基準は新しい髪型、上手な化粧、高級な服やアクセサリーということになってしまう。意識するしないにかかわらず、私たちはもう、長年の評判や身の施し方で人を評価しなくなった。
男性も女性同様、老けて見えることに不安を感じ、何とかしようとしているのだ。1997年から2001年までの間に、美容整形を受けた男性は256%増加した。2004年に男性に対しておこなわれた美容術は、120万例。発毛剤ロゲインは禿げを止める切り札だ。身体醜形障害(自分の外見に欠陥があると思いこんでしまう心の病気)や逆拒食症(自分の体が貧弱だと思いこみ、筋肉をつけることに固執する心の病気)になってステロイド濫用に走る男性もいる。2006年、俳優デニス・クエイドは『ベストライフ』誌上で1990年代に「男性摂食障害」だったことを告白した。多くの医師は、男性は摂食障害になってもその事実を隠すと考えている。
「僕は自分の体を変えられないわけじゃない。ただ、今まで変えなかっただけだ」とスパイカーは『O』誌上で書いている。『1つはっきりわかっていることは、僕は腰回りをすっきりさせ、腹を引っこめ、尻をへこませる努力をいつまでも続けるということだ』
立派な脂肪吸引患者候補のようである。そういえば脂肪吸引は、2004年に男性が受けた中で一番人気の美容整形術だった。
ニューヨークのような都市では、人は自分の依存癖を好んで話題にする。あたかも何かに依存する性質を持っていることは何かを達成した証しであるかのようだ。依存癖について話すことで、人は実力者、影響力のある人々、強い感情と情熱にあふれ、ありふれた日常的なものよりも複雑で高尚な悩みを持つ人々から成るエリートグループの仲間入りをすることができる。
------------------------------------------------------------------------------------------—-
これまで長年にわたって、脂肪吸引、眉毛リフト、二度のフェイスリフト、目の整形(上瞼、下瞼別々に)をうけてきた。豊胸手術もした。インプラントを入れては取り出し、もっと大きいインプラントに入れ直してきたのだ。仲間内ではX夫人は標準的だと考えられている。しかし昨年、友人の誰もしたことのない領域に踏み込んだ。
「お風呂あがりだったわ」夫人はそう言ってあたりを気遣うように視線をそっと下に向け、見たのが陰部であることをほのめかした。「それで、気がついたの。あの、内側がね、ちょっとはみ出してて、外のほうが、なんて言えばいいのかしら、たるんでたのよ」。
夫人はゲイリー・アルター医師を紹介してもらった。泌尿器科と形成外科両方で学会認定を受けたロサンゼルスの形成外科医で、伸び盛りの性器美容外科分野の第一人者といわれている(男性患者向けには、ペニスのインプラント、睾丸インプラント、陰嚢縮小などさまざまな手術をすることができる)。

~中略~
ポルノ花盛りのアメリカ文化において、見た目のよさが人体のありとあらゆる部分に及んでくるのは避けがたいことだ。陰唇整形はかつては風俗関係の女性、ストリッパー、ヌードモデルだけが知る分野だった。以上に大きな陰唇を小さくした一望む女性が時折利用することはあったが、それは例外的なケースである。けれども今日では、ポルノから生まれたイメージが消費のメインストリームに躍り出て日常生活の一部として溶け込んでいまった。カジュアルファッションブランドのアバクロンビー&フィッチはストリッパーの下着からヒントを得て、少女向けにTバックなどのセクシー下着を販売する。20年前なら「ビキニワックス脱毛」などという言葉は絶対口にしなかったであろう女性が、今では下半身をシェイプアップして脱毛し、露出部分の極めて大きいブラジリアンビキニも着るようになった。スポーツジムではエアロビクスプログラムにセクシーなポールダンスを取り入れる。

~中略~
こんな風にポルノのイメージが世間で大手を振って歩けるようになったことで、女性の自分に対する見方が変わった、とヤング医師は言う。

~中略~
「風俗で働いているわけでもないのにこういう手術を受けるのは、誰かから、あなたは完璧じゃないと言われてプレッシャーを受けるからです。アダルト産業やインターネットのアダルトサイトで男性が女性の性器を見て、パートナーと比べますよね。そういうのが美しい女性器の標準になっているんだと思います。年よりっぽいヴァギナはごめん、というわけです」
ゲイリー・アルターはいくらでも喜んで女性器に関する治療を行う。彼に相談に来る女性のほとんどは若い女性だ。魅惑的でポップなイメージに影響されやすい女性達である。「しぼんだようになっている女性もいますが、そういう人には体の別の部分から脂肪を取ってそこに注射します」彼は明るくビジネスライクな口調で話してくれた。「それから先の方が膨らんでいるのを嫌がる人もいます。それは脂肪吸引で小さくできます。するとタイトなドレスも着やすくなりますから」
どんな美容整形術でも「ビフォア」と「アフター」の写真を載せるウェブサイトがある。この陰唇整形についても例外ではない。フォートローダーデールで婦人科医を務めるバーナード・スターン医師のサイトにはこんな警告が書かれている。「本サイトの画像を不快と感じる方は入らないでください」

~中略~
X夫人は今ではとても若返った気分だ。「私は女優のドリー・パートンみたいになるために、体中にずいぶんお金をかけてきたのよ。だから、あそこだけが」―彼女は再び遠慮がちに視線を下げた―「おじさん歌手のウィリー・ネルソンのままなんて、ねえ」
------------------------------------------------------------------------------------------—
引用されている2人を知らない方のために、これがドリー・パートン

これがウィリー・ネルソン。

そういえば、世界初のクローン羊‘ドリー‘の名は、乳腺細胞由来のクローンということでこのドリー・パートンの巨乳にちなんでつけられたのだそうですね。いいジョークのセンスだと思います。(笑)