ロレッタブログ

スキンハンガー - 2020.05.22

「孤独な人は太りやすい」と言われるのはある意味では事実です。ヒトは皮膚接触の機会が不足していると、精神的にとても不安定になります(自閉症などの感覚過敏のケースは除く)。私のLA在住の知人も、恋人ができたら痩せて、別れたら太るを繰り返している人が二人います。男性でアメリカ人だから太り方のスケールが日本人とは桁違いで、胃を半分ぐらいに縮小する手術を受けていたような記憶があります。

では、有名なハーローのアカゲザルの実験の動画を見てみましょう。針金で模した母猿と、針金にタオルを巻いて模した母猿をそれぞれ檻の中に設置します。子猿が抱きつくのは、さてどちらの模型でしょうか?

ハーロウって人非人?と思うような残酷な実験ですよね。赤ちゃん猿の養育には、食物の供給だけではなく温かな肌の寄り添いが必要なことがよくわかります。

ではなぜさみしい人は太りやすいかというと、皮膚接触の渇望感が満たされなければ、人間の身体は一枚皮ですから、その代わりに皮膚と繋がる粘膜を満たすことで接触欲求を満たそうとする、という説があります。食べ物を口いっぱいにほおばり、食道から胃に流し込んで満たす一連の摂食行動は、まるで食べ物による寄り添いとマッサージです。

さらに、不安感やストレスにさらされた脳内で欠乏したセロトニン分泌を増やすために、糖質や高脂質の摂取量が増えます。また、高脂質の食べ物は、腸壁からコレシストキニンおよびセクレチンなどのホルモンの放出を促し、脳と消化管を結ぶ迷走神経(副交感神経)を刺激するので、リラックスし、穏やかな気持ちになり、眠くなり、満たされたような気持ちになります。まさにこの反応は、マッサージを受けた時と同様です。

最近はスーパーではアルコール、ポテトチップス、カップ麺、チョコレートなどが普段よりも売れているそうですが、「そういえばいつもよりカフェインの摂取量が増えている」という人もいるかもしれません。

不安な気持ちを収めるための喫煙、アルコール、高糖質高脂質食は、一時的なリラックスをもたらすとともに、高揚ももたらします。しかし、このどれもがあくまでも一時的なリラックス効果しかもたらさず、長期的にかつ頻回に大量に摂取すると、健康によくない結果をもたらすのはご存じのとおり。

どういうことかというと、何度もこのブログでご紹介しているとおり、砂糖やアルコールや高脂肪食はドーパミンを沢山出してくれるので中毒性や依存性があります。「一度食べてみたら予想以上にものすごく美味しかった!」「お酒の場が楽しかった」というドーパミンの過剰放出は喜びの感情をもたらすので、たまの贅沢のはずが、毎月欠かせない食習慣になり、毎週になり、ついに毎日という悪い習慣化が完成します。「新しいケーキ屋さんができていたから行かなきゃ」「デザートは別腹」「晩酌は欠かせない」「せっかくお肉を食べるなら、サーロインや霜降り和牛とか唐揚げじゃないと食べた気がしないよね」となります。

一回の食べ過ぎで肥満になることもなければ、一回の飲みすぎで脂質異常症になることもありません。心身の健康と美を維持しながら楽しむなら「上質なものを少量味わう」です。

また、摂食障害の人を見ていて私が受ける印象は、他人からのタッチを拒絶することを、まるで胃の入り口を閉じること(拒食)で表明しているような感じを受けます。ものすごく周りの人に気をつかうけれど、コミュニケーションを徹底的に拒絶したかたくなさがある、という感じでしょうか。またそれとは逆に、過度のタッチ(暴飲暴食)で埋めようとする人もいます。また、拒食と過食の両方を繰り返している人も多いです。

3月頃にNYやイタリアのコロナで医療崩壊した病院のショッキングな映像を見て、しばらく食欲を失った(食欲減退)という知人もいたのですが、食物の消化と吸収は副交感神経優位の機能ですから、強いショックに遭遇すると生存がかかっていますから交感神経が極端に優位になり、脳と心臓に血液が集中します。その結果、自律神経系のバランスが乱れて、食べる、寝るなどの基本機能が乱れます。このように、精神はいくらでも嘘をつきますが、体はとても率直に素直にその人の性格や生活習慣や態度を表現します。

また、空腹のときに消化管のガストリンのレベルが上昇すると、胃液の産生が増加し、胃粘膜の炎症を引き起こします。急性胃炎とか急性腸炎などは、「急性の面を被った慢性ストレスの代表例」ですよねこのガストリンのレベルも、ふれあいや寄り添いの多い人やマッサージをうけているときは低下することが実証されています。このように、食欲や胃腸の機能は、親しい人とのかかわりあいを反映していると言われています。

現代社会が難しいのは、その質はどうであれ、カロリー過多の食べ物や安くて速く酔えるお酒や甘い食べ物は豊富に供給されているのに、寄り添いは寒々しいほど供給不足だということです。ふれあいは養育だけではなく、生きるために大人にも必要です。自己充足感の薄さはさみしさは、食べ物やお酒で埋めあわせをしやいのですが、それは一時的な紛らわし行動にしか過ぎないので、ここに述べたとおり、結果的には「量を増やす」か「回数を増やす」という顛末になります。

心と体が相反し乖離した行動を続けることで、人は病気になり、症状は進行していきます。進行すればするほど、人の助言や心配にも耳を傾けず、ますますかたくなになり、周囲から見放され、スキンタッチの機会はさらに貧しくなります。この状態を孤立と呼びます。

明日は日本のスキンタッチの現状について考えてみましょう。