ロレッタブログ

ドーパミン中毒 / アンナ・レンブケ - 2022.11.27

今夏インタビューを聴いて、すっかりファンになってしまったアンナ・レンブケ教授。彼女のこのインタビューと出会う前から、私自身は依存症者の嗜癖行動と回復の過程には昔から興味があって、個人的にも色々リサーチしてきていました。その最大の理由は、私としては依存症者は普通の人とは別格の極端な人達とは考えていなくて、みんな同じ穴の狢で依存症の程度の差はただの程度問題、と考えているからです。

私は彼女の知性と謙虚さと誠実さと正直さに「この人は本物だ!」とすっかり魅了され、今夏は彼女のインタビューを観まくり、読みまくり、さらに世界的ベストセラーになった近著「Dopamin Nation Finding Balance in the Age of Indulgence」は、YouTubeでロボットが読み上げているのを聴いていたのですが、10月日本語訳「ドーパミン中毒」が出ていました!

のっけからマスターベーション依存の人のエピソードから始まるので、ちょっと面食らう人もいるかもしれません。が、これも彼女自身の意図としては、比較的公に打ち明けやすくなってきた他の依存症とは異なり、セックス依存やポルノ依存は口にするのもはばかられる様な存在で、近年はインターネットの発展で世界的に患者が急増しているという現状を踏まえて、あえてこのエピソードを冒頭に置くという判断をしたようです。

ヤフーニュースにもトピックとして取り上げられていたデイリー新潮の記事はこちら。これはさわりの抜粋ですが、「依存症なんで私には無縁。そんな人のこと気が知れない。」ぐらいに全くの他人事だと思っている人には、ぜひ著書も読んでいただきたいです。

https://www.dailyshincho.jp/article/2022/11220609/?all=1


私の最もお勧めのインタビューはこちら。もちろんRick Roll氏との対談です。私は全編をもう3回ぐらい聞きましたが、面白すぎて全く飽きません!アンナ教授曰く、Dopamin Nationの出版に際して受けたインタビューで最も彼女自身が理解してもらえたと実感し満足したものがこちらだそうです。ですよね~。


同じスタンフォード大学のアンドリュー・ハーバーマン教授との対談も学びが非常に多いので、ぜひ上のRichRoll氏との対談と併せて視聴してみてください。依存症の再発、依存性が無いと言われるCBD(←最近流行ってますね)、そして近年先進国で合法化に向けた動きが多いマリファナの中毒性についても述べられています。私的には「やっぱりそうだねーそんなうまい話ないよねー」という内容でした。


トム・ブリュー氏の対談は、他とは一風違う展開が結果的に非常にユニークな内容になっていました。「何故どの宗教も祈る時に膝まづくのか」という素朴な疑問に対する彼女の推測に私は脳がしびれました・・・!動画後半では二人の意見のどうにも相容れない見解の違いが顕著になるのですが、これがより興味深いです。そして両者をお互いに理解しようと努める丁寧なコミュニケーションに、私はまたまたしびれました・・・。

人間の暮らしを原始時代まで遡れば、サバイブすることが最大の目的であり、余暇を楽しむとか暇をつぶすなんてことよりも、毎日が「今日生きるか死ぬか」の瀬戸際でした。さらにもっと文明が発展してからも、そこそこ経済的に裕福な人でなければ「毎日好きなことを存分に学ぶ」ことも「趣味に没頭する」ことも「暇をつぶす」ことに時間も費用も割くなんて不可能でした。

それに比べると、現代人は依存物質や行動に耽溺しなければやっていられないほどのストレスやプレッシャーを感じることはあるし、どの国もどの社会にも問題はあるけれど、やはり古代と比較すれば現代は奇跡的なほど恵まれた時代なんですよね。

つまり、現代人は退屈を感じやすい状況下で生きることができるようになったわけです。企業は消費者に極力何も考えさせずに短絡に自社製品に飛びついてもらうための施策やマーケティングに膨大な予算を割いて非常に長けたものを出してくる。だから誰もが気を紛らわせてくれるような物質や行動に依存する可能性はあるんですよね。

精神的にマチュアな人や、社会的地位、高学歴、高収入、良家の子女なら依存と無縁かというと全くそんなことは無く、誰もが手っ取り早くすぐ楽になれそうな鼻先にぶら下がった依存物質や行動に飛びつかずにはいられないものなんです。

これでもまだ、「私は依存症とは一生無縁」と思う人にぜひ知ってほしいのは、アンナ教授自身の臨床経験において最も想定外だった依存物質は「水」という事実。アルコール依存症のとても愛らしくて女の子が回復しつつあったけれど、多飲症(polydipsia)になり、最終的に自死したそうです。

誰もが自分の中に、自分は特別で無縁で別格と自己過大評価して、結果が出るまでじっくりと継続して取り組まなければいけないことなんて面倒でやりたくないし、目先の楽に逃げたいし、手っ取り早く気持ちがよくなりたいという欲求を持っています。そのくせ部下や家族や子どもに「じっくり着実に取り組みなさい」とか一体どの口が言うんだ、ですよね!(笑)

ただ、人間の脳ってそういうものなんです。そんな風に生きていくうちに、50代にもなれば脳の老化も加速し機能低下を起こし、ますます脳がリカバリーしづらくなっていく。誰もに依存症の素養があり、そうなる機会に囲まれて現代を生きているという事実を認識したほうが、賢明なんじゃないかな、とますます思いました。